2008-06-11 20:55:00
『「三国志」の人物学』 [ 『三国志』関連書籍等紹介 ]
守屋洋〔著〕『「三国志」の人物学』
(PHP研究所 1984年第1版第1刷,1990年第1版第29刷 ISBN 4-569-56015-6)
本書は1981年にPHP研究所から出版された同名書籍の文庫版であり、「『三国志』の魅力を、主な登場人物の実像を通してえがこうとしたもので」(本書5頁 文庫版への序文)、「ビジネスマン、とくに管理職の人たちを念頭におき、現代を生きるうえでの一助にでもしていただければというのが」(本書5頁 文庫版への序文)著者の意図だとのことである。また、本書は正史の記録にもとづいて人間学的側面を取り上げることに努めたとも著者は述べられている(本書8頁 まえがき)。
本書の序章では「『三国志』の人間関係学」と題して、英雄としての曹操と劉備、著者曰く「二流の人」である孫権と袁紹、「悲劇の補佐役」である沮授と荀、好敵手の諸葛孔明(諸葛亮)と司馬仲達(司馬懿)について、それぞれを比較しながらまとめている。その後、「トップの人物学」として袁紹・曹操・曹丕・劉備・孫権を、「参謀役の人物学」として荀・賈詡・司馬仲達(司馬懿)・諸葛孔明(諸葛亮)・関羽と張飛・蔣琬と費禕・周瑜・呂蒙・陸遜・諸葛恪を、「奇矯の人物学」として禰衡・阮籍と嵆康・華佗・左慈と管輅を取り上げている。
内容を見ると、正史の記述をオーソドックスに読んだ上で述べられている部分が多く、これはこれで「確かにこのような見方はできる」と思う箇所が多い。それに、1980年代前半において、『三国志』における参謀役として蔣琬と費禕や諸葛恪を取り上げているのは珍しいのではないかと思う。この人選はなかなか興味深い。また、「奇矯の人物学」という章を立てておられることも非常に面白いと思う。
2008年の時点から見れば、いろいろと考えてしまうような内容もある。例えば著者は、孫権は天下取りの意志が弱く、「ほぼ一貫して脇役の地方政権に甘んじた」(本書83頁)と述べられている(本書82〜83頁参照)。確かにその通りだと筆者も思うが、その背景として異民族である山越が呉を悩ませていたことや、孫策や諸葛恪のように「北伐」を主張する人々が暗殺に倒れるケースがあったということを考慮する必要がある。さらに、地方政権に甘んじた理由として、呉の人々も感じていた正統性の弱さも考えなければならないだろう。単純に孫権自身の評価に結びつけるのは難しいのではないだろうか。
また、蔣琬・費禕を守成型人間として述べられている(本書146〜156頁参照)が、費禕はともかく蔣琬については「守成型人間」として評価することに筆者は疑問を抱いており、論文としてまとめたことがある(「諸葛亮歿後の「集団指導体制」と蔣琬政権」(『創価大学人文論集』第17号 2005年)・「蜀漢・蔣琬政権の北伐計画について」(『創価大学人文論集』第18号 2006年))。
ともあれ、本書はビジネスマン向けでありながら、『三国志』や『後漢書』といった正史や他の史料の内容をしっかりと踏まえて『三国志』の人物を扱った書籍として有益なものだと思う。
おススメ度:★★★★☆
注)
ご覧になる方の環境によっては、「葛」・「禰」・「嵆」の字が本来の字と異なってしまうこともあるかと思いますが、ご容赦ください。
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