2008-08-29 01:02:00
『帝国のシルクロード 新しい世界史のために』 [ 『三国志』関連書籍等紹介 ]
山内昌之〔著〕『帝国のシルクロード 新しい世界史のために』
(朝日新聞出版 朝日新書 2008年 ISBN 978-4-02-273225-5)
本書は『週刊朝日百科・シルクロード紀行』に連載されたエッセイなどをまとめたものであり、書名も『週刊朝日百科・シルクロード紀行』の連載タイトルからとられたとのことである(本書258頁「おわりに―アジアゲートウェイの未来に向けて」参照)。ここでは、本ブログの趣旨に沿って第3部・6の「『三国志』、秘数三と裏設定」について述べていきたい。ちなみに、この文章の初出は横山光輝〔著〕『愛蔵版三国志』第3巻(潮出版社 2007年)とのことである。
この項では、まず「日本人に限らず『三国志』の人気が高いのは、ストーリーや人物が「三」という数字にからんでいる点と無関係ではないだろう」(本書208〜209頁)とされているが、注目すべきはその理由として「天地人を指す「三」は聖数とされ、「王」の字形も「三」を貫くもので、道の実践者を意味する」(本書209頁)という白川静氏の見解を示した上で、「「三」は事物の安定と対立と回復がはらまれている弁証法的な構造を秘めた数字といってもよい」(本書209頁)とされていることである。個人的には、この指摘がなかなか興味深い。
また、「世界史と日本史上の三国鼎立」と題して様々な「三国鼎立」を示しておられる。高句麗・百済・新羅の朝鮮三国時代はともかく、劉邦・項羽に匈奴の冒頓単于を加えて「三国鼎立」と見て、その最終的勝者を冒頓単于とする見方はこれまでなかなか指摘されてこなかった。非常に面白いと思う。さらにイスラーム世界では8世紀後半の後ウマイヤ朝・イドリース朝・アッバース朝、10世紀初めの後ウマイヤ朝・ファーティマ朝・アッバース朝の三国鼎立を述べ、ほぼ同時代のヨーロッパの「フランク三国志」というべき東フランク、中部フランク、西フランクの各王国の鼎立(これらがドイツ・フランス・イタリア三国の起源となることは高校世界史の教科書にも書かれていることである)を示している。日本史では戦国時代の島津義久(薩摩)・大友宗麟(豊後)・竜造寺隆信(肥前)、今川義元(駿河)・武田信玄(甲斐)・北条氏康(相模)の鼎立に、北信濃・上野をめぐる上杉謙信・武田信玄・北条氏政の争い、最上義光(山形)・伊達政宗(仙台)・蒲生氏郷のちに上杉景勝(会津)を指摘している。
さらに、酒見賢一〔著〕『泣き虫弱虫諸葛孔明』第弐部(文藝春秋 2007年)が巻頭で紹介している『全相平話三国志』などに伝えられている説を紹介している。すなわち、後漢・光武帝の時代の司馬仲相の夢見に出てきた話として、天帝が劉邦の臣下殺害の報復として、韓信・彭越・黥布をそれぞれ曹操・劉備・孫権として天下を三分させる。劉邦は献帝、呂后は伏皇后として蘇生させて罰せられることになっている。さらに諸葛亮は蒯通に、司馬仲相は司馬仲達として生まれ変わるとし、著者はこれらの設定を「中国人ならではのスケールの大きな構想力の所産というべきだろう」として評価されている。
さらに、蒯通が韓信に薦めた計(「強国斉に拠って燕や趙を従え、劉邦の漢や項羽の楚と天下を三分する計」〔本書214〜215頁〕)も諸葛亮が劉備に説いた「天下三分の計」とほぼ同じ政略だとされていることも、非常に面白い。このような視点で天下三分の計が論じられた著作はそれほど多くはないだろう。
本書の中で『三国志』を扱った部分は非常に短いが、示唆に富む指摘が多いと感じる。全体を通してみても、主にユーラシアの歴史を扱ったエッセイとして良いと思うので、一読をお薦めしたい。
お薦め度:★★★★★
注)
ご覧になる方の環境によっては、諸葛の「葛」の字が本来の字と異なってしまうこともあるかと思うが、ご容赦いただきたい。
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